「夜の国のクーパー」(文庫版。伊坂幸太郎)の感想

★★★
伯爵レグホン大佐 2015/05/10(Sun) 16:00

あらすじ

猫のトム君が住む国は、鉄国と呼ばれる国との戦争に敗北した。戦争が終わり鉄国の兵がトム君の国にやってきて支配を始める。手始めに鉄国の「片目の兵長」は、猫の国王「冠人」を銃殺した。トム君の国の人々は戦後の自分たちの行く末を気に掛け、クーパーの兵士が助けに来てくれないものかと祈り始める。

クーパーの兵士とはクーパーを倒すための兵士を指す。トム君の国の近くにある杉林に何十本と生えている杉の木のうち毎年1本が蛹化(ようか。脱皮のこと)してクーパーになるらしい。クーパーは木なのに移動して暴れるらしく、トム君の国はその被害を抑えるために毎年クーパーを倒すための兵士を送っている。クーパーを倒すとその木の内側から水分が飛び散り、その水分に触れたものは透明になってしまう。そのためクーパーの兵士はクーパーを倒しても国に帰ることができない。トム君の国の人々は透明になった兵士が鉄国の支配から自分たちを救ってくれないものかと考える。

一方で、猫のトム君が見つけては狩っていたネズミたちが突然トム君に話しかけてきた。トム君はネズミが言葉を話せるとは思っていなかったが、実際には話すことができて言葉も通じた。ネズミたちの方も、自分達にとっては猫は天災のようなものだから言葉が通じるとは思っておらず、台風や雷に話しかけても意味がないのと同じだと今までは思っていたが、遠くからやってきた「遠くのネズミ」に猫とも言葉が通じることを教わったのだという。ネズミのリーダーである「中心のネズミ」は自分たちを襲わないでほしいとトム君に取引を持ちかける。ネズミには猫にはできない有益なことがあり、それらを猫の代わりに行うので襲うのはやめてほしい、あるいは定期的に一定数のネズミを猫に生贄として差し出すので、むやみに襲うのをやめてほしいと言う。

ゆあさ社長はドミノ倒しの爽快感を得るために、本書を読みながら必死に駒を並べた。ゆあさ社長は以前から、本書のようにラストで仕掛けが分かるミステリー小説はドミノ倒しに近いと感じていた。きっとラストには自分が「うおお!」と思うような、「ハリーポッタと賢者の石」のような壮大な仕掛けがこの物語にはあるのだと思い、必死に本書を読んだ。きっと大丈夫。このドミノはまるで万里の長城のように壮大なものだ。ゆあさ社長はそう確信していた。

しかし違った。

この物語にはゆあさ社長が思っていたような、J・K・ローリングが著したハリーポッタのような壮大な仕掛けはなかった。ゆあさ社長が万里の長城だと思って必死に並べていたドミノは、万里の長城ではなく、積水ハウスだった。「私が必至こいてドミノを並べていたのは、いい家を建てたかったからじゃないんだよ!!」と憤慨するゆあさ社長。

これは猫と戦争、そして何より、ゆあさ社長についてのおはなし~

感想

前回(2013年10月)は本書の単行本の感想を書いた。今回(2015年5月)は文庫版の感想である。伊坂幸太郎は著書の文庫化に際し、まれに多くの修正をすることがあるが、今回の文庫化に関しては特段、修正されていると感じる箇所はなかった。違和感がない程度に修正されているのかもしれないが、私はそれに気がつかなかったので修正したのかどうかはわからない。

すでに単行本を持っている場合、文庫化に際して何も変わっていなければ文庫版は買う必要がないと思いつつも、文庫化されると持ち運びしやすいし、重くないので読むときに手が疲れないという利点のことも考えてしまう。私の場合、古本屋で本書の単行本を買ったが、本を置く場所がないので、結局その本は別の書店に売却した。そのため私はこの本を持っていなかったので今回の文庫化に際して本書を購入することにした。以前と異なり、私は電子書籍を購入するようになっており、今回は文庫版を購入したといっても電子書籍の文庫版を購入した。紙の本に限らず電子書籍の場合でも、単行本より文庫版のほうが値段が安い。電子書籍の利点は紙の文庫版よりも軽くて、持ち運びが容易なところである。また、文章にマーカーも引け、検索機能やページのブックマーク機能、文字の拡大等もできて便利だと思う。

しかしながら紙ベースで販売している本が電子化されるまでにはタイムラグがある本も存在する。人気のコミックや本だと紙ベースの発売日に電子書籍版も出るが、そうではないことのほうが多い。例えば先日、書店で本書と著者が同じ「あるキング」の完全版(文庫版ではない)を見かけた。文庫版は2012年に販売していたが、完全版とは一体なんなのか。気になったのでそれを電子書籍で買おうと思ったが、電子化はされていなかった。仕方がないので紙の本を買った。このように紙ベースで販売されている本が電子化されるにあたってはタイムラグが存在する。短くて1~2週間、長ければ半年以上である。そのため書店では既に販売しているが電子書籍で揃えたい本は電子化するまで待たねばならず、もどかしいのである。

前回の感想文には「単行本は移動中に読みづらい」と書いたが、今回は電子書籍のため読みやすかった。これで電車の中でもバスの中でも信号待ちでも読める。とてもよかったと思う。

ミステリー小説は読むのが2度目のときは、既に内容を知っているので1度目よりも面白みが無くなると前回の単行本の感想文に書いた。 本書を読むのは今回で2度目になるが結局どうだったか。前回本書を読んだのは2年前で内容は大まかにしか覚えていなかったのでそこそこ楽しめた。 読みながら、これは一体どういう話だったかと考えることはあったが、面白さが全く無くなるわけではなかった。ただ、気になってすぐに続きが読みたいと思うような話ではなくなっていた。たとえば前回、感想を書いた「火星に住むつもりかい?」は続きが気になってひたすら読み続けたし、本書についても前回読んだときは寝る間を惜しんで読んだ。今回はどうだったか。読んでいて何度か眠くなることがあった。かといって、全く面白くないわけではない。内容を知っているマンガを再度読んでいるような感覚だった。

おわり。

伊坂幸太郎の本の感想文