「火星に住むつもりかい?」(伊坂幸太郎)の感想

★★★★★
伯爵レグホン大佐 2015/05/09(Sat) 01:00

あらすじ

地域の安全を守るために新しく「平和警察」という制度ができた。平和警察は毎年どこかの地区を安全地区に指定して、その地区の平和を守るために危険人物を探す。危険人物と判定された人は危険なので公共の場で斬首刑となる。

危険人物なので処刑されて当然、平和警察が危険だと判断したのだから危険人物に違いない等と民衆は思い込み、ほとんどの人は処刑に違和感を覚えない。むしろ一般公開される斬首刑を見物して、また次の斬首刑も見たいと思う人がほとんどである。

そんな中、危険な人物が危険人物として処刑されているのではなく、平和警察が危険であると判断した人物が危険人物にされていることに違和感を抱き、思い思いに行動する人々の話。

感想

本書は第5部まである。第1部は平和警察の拷問や無実の罪で危険人物とされ刑を受ける人の話で、内容は面白いがあまりにも視点が変わりすぎて訳が分からなくなる。とても読みづらい。ストーリーは面白いが登場人物の名前はさっぱり覚えられない。

平和警察ができて危険人物が処刑され、安全地区は犯罪が減少しており、ほとんどの人はこの処刑を効果的だと考えているらしい。そもそもほとんどの人は「危険人物だから処刑されるのだ」と思っているから、そういう考えに至っても仕方がないのかもしれない。平和警察が危険だと判断して、合法的な尋問をして危険人物だと分かったのだから危険人物でないなんてありえないと考えてしまう。ただし、警察側は情報を操作できるらしく、その人物が危険であるという噂やニュース等を流すそうで、そうなるとニュースでも言っているからとか、新聞に書いてあるからとか、ネットに書いてあるからといった理由で、ほとんどの人はその情報をうのみにしてしまうらしい。

ネットの情報は嘘ばかりとか、真偽が不明だとか、数年前はよく耳にした気がするが最近はそういうことが少なくなった気がする。むしろネットに書いてありましたよ、と言われるくらいには正しい物のようになってきた。そんな気がするのは今だけかもしれないが今日はそういう気分なのでそういうことにしておく。

特によく聞くのは「ウィキペディアに書いてあったから」である。ウィキぺディアに「伯爵レグホン大佐は人間じゃなくて高度な頭脳を持つサルです。」と書いてあったら、私が人間であることを主張しても「サルってネットに書いてましたよ。だからサルじゃないですか?」とか言われるのだろうか? そんなことになったらとても残念だと私は思う。

「残念に思います」という含みを英語で「I'm afraid」と書くらしい。私は以前から22~26日頃はよく「I'm afraid」という英語が当てはまると思う。これを聞いても意味がわからない人が大半だと思うが、24日は特に「I'm afraid」が似合う日だと思う。なぜかそういうイメージがある。他の日には何のイメージも思い浮かばないが22~26の数字にはそれが浮かぶ。

それはともかくネットで他の人の感想を読んだところ、本書はヒーローの話だと書いてあった。平和警察は犯罪を未然に防いだり、市民の不満を解消するために役立っており、つまりはヒーローと言えるらしい。また平和警察に反発する人も警察の非道な方法から市民を救うヒーローであると考えられるらしい。本書には警察に捕まった人を助ける人も登場するがそれもヒーローらしい。とにかくヒーローの話らしい。しかし私は本書がそんな話だとは思いも寄らなかった。やはり読む人によって解釈の仕方が異なるということを実感した。以前、万里の長城を目指していたら積水ハウスが建っていたという謎の感想文を書く人がいた。やはり人がどういう感想を抱くかは人それぞれ違うのだろう。

ちなみに本書には「1人を助けたら他の人も助けないと偽善者である」として周囲から罵られるシーンがある。宝くじを当てた人がお金に困った友人にお金を貸したところ、隣人や知らない人までが家に来てはお金に困っているから助けてほしいと言い、渡さなければ偽善者だと罵倒してくる。この罵倒はかなり無理な考え方だと思うが、人助けというのは結局、自己満足にすぎないという考えが最近の主流だと私は思っているので、その流れに乗った話なのだと思った。(←? 「人助けというのは~」のところから意味がよく分からなくて推敲しきれないのですが?)

本書は伊坂幸太郎の最近の話とは異なり、以前の勧善懲悪スタイルに近いとも言える作品である。かといって以前ほどの爽快さはない。悪人が最後にピストルで股間を撃たれるわけでもないし、最後はどうなったのかよくわからない。結末を読み手に任せているともいえるが、バイバイブラックバードほどでもない。あれは結末があっさりしすぎていて困るが、本書はそこまでではない。

本書はタイトルからSF作品とか、火星に行く話とかを連想させるが、そういう訳ではないので注意が必要である。タイトルの意味を解釈すると次のようになると思う。平和警察の制度が嫌なら外国に逃げるのも良いけれど、外国でも病気や差別などひどいことは色々ある。それならいっそ火星にでも住んでみれば? ということらしい。

長くなってつかれたのでおわり。

伊坂幸太郎の本の感想文