「バイバイ、ブラックバード」(伊坂幸太郎)の感想

★★★
伯爵レグホン大佐 2013/06/23(Sun) 15:59

内容

5股かけている青年がマツコ・デラックスと一緒に、5股被害者の女性たちと別れる話。全6つの短編からなり、1編ごとに1人ずつ別れる。太宰治の書いた未完の作品「グッド・バイ」のオマージュ。

感想

この作品は太宰治の「グッド・バイ」を元にして作られた作品である。グッド・バイは主人公が2人目くらいの女性と別れたところで続きがなくなっている。太宰が死んだために続きがないのだとか。

そんなわけでグッド・バイに出てくるキヌ子役としてブラックバードには繭子というキャラが出てくるのだが、これがどうにもマツコ・デラックスを想像してしまう。私にとっては「繭子=マツコ」なのである。この作品は繭子ことマツコが暴れる話といったほうが分かりやすい。主人公の名前は星野というが、正直言って星野が5人の女性と別れる場面よりもマツコのほうが記憶に残る。

グッド・バイのキヌ子以上に粗暴なキャラである繭子は、なかなか魅力的なキャラだと思う。繭子の前では主人公の星野がかすんでしまう。他の5人の女性のこともどうでもよくなるほどである。しかし、太宰のグッドバイのキヌ子も結構めちゃくちゃなので、これで良いのかもしれない。キヌ子は声がカラス声で、服が浮浪者だが、正装をすれば絶世の美女らしい。しかし、繭子は正装してもマツコのままである。

本書には本屋が宣伝のキャッチコピーを付けていて「長編5冊分にも匹敵する面白さ」みたいなことが書いてあったが、そこまで面白くはないと思う。面白いといえば面白いが、長編5冊分には匹敵しないと思う。ただ、長編を5冊も読むとなると速読ができない人は結構な時間がかかる。だから長編5冊を読むよりも、こちらのほうを読んだほうが良いと私は思う。

ちなみに本書の主人公の星野は「あのバス」とかいうバスに乗って、ギアナ高地の奥のようなところに連れて行かれるらしいのだが、結局どこに連れて行かれるのかはわからずじまいである。文庫版では明言してくれるかと期待したのだが、そうはいかなかった。

伊坂幸太郎の小説は単行本から文庫版になる際、かなり改訂というか加筆・修正が出るのだが、今回のブラックバードにはほとんどそれがない気がする。他の作品の「あるキング」とか「モダンタイムス」とかは加筆・修正が多すぎて単行本の時と別物になっていたりする。

なにはともあれ、本書を読む際にはグッド・バイも読んだほうがよいかもしれない。

印象に残ったセリフなど

あのバスに乗っている人たちが、そのバスに乗ってここに帰ってきたときに、人間の数は何人になっているでしょう、というクイズとその答え。ディズニーの映画「ピノキオ」に出てくる「正直ジョン」の上司も似たようなことを言っている(管理人の注釈。ピノキオの場合、人からロバになるのでもう人間ではない)。

伊坂幸太郎の本の感想文