効率的な男

第一話「効率的だと信じて疑わない鳥」
伯爵レグホン大佐 2013/05/12(Sun) 22:31
私の名前は「丹羽鳥朗」。 鳥年齢10歳。 人間でいうと30歳ということにしといてくれ。 鳥の年齢を人間の年齢に換算するといくつになるか。 そんなこと知らない。 考えるのが無駄だ。 どうだ効率的だろう。
私は効率的に生きている。 たとえば、朝食にコーヒーを飲むとしよう。 私はブラックコーヒーしか飲まない。 何も入れない。 かき混ぜるのは非効率的だ。 私はそう思っている。
他にも例を挙げよう。 たとえば朝食を食べ終わり、外に出ることにしたとしよう。 しかし、天気予報によると今日は降水確率30%だ。 外は薄く曇っており折り畳みの傘を持っていくかどうか悩むところだ。 だが、私は悩まない。 効率的に生きている鶏は違うのだ。 だてに30年、生きていない。
そうこう考えているうちに、道の前方から見知った鳥が歩いて来るではないか……。 いったい誰だあいつは。

「お! 鳥朗じゃないか。久しぶりぃ! 今からお出かけかい?」
思い出した。 やはり効率的な鶏は違うな。 こいつは俺の知り合いの白色レグホンだ。 こいつ昼間から木製の野球バット持ってる。 物騒なやつだ。 関わりたくない鳥だな。
「お! 気づいたか俺のバットに。いいだろう。これ。マジですごいぞ。アオダモのバットだ。その辺の木製のバットとは違うぜ!」
「俺の趣味は野球じゃないか。知ってるだろ? そういうこと」
何を言っているんだこいつは。 よくこんな会話で生活ができるな。 そもそも「~じゃないか」なんて知らんよ。 じゃないですか禁止令っていうエッセイ知ってるか?
「いや~、実はこの前(~中略~)バットが折れたんだ」
「だから俺はあの日から折れにくい日本のアオダモのバットに変えたんだ」
ほうほう、要するにバットが折れたから今度は折れにくいバットに変えたということか。 折れやすいバットで安物買いの銭失いとかなんとか言うやつか。 で、折れにくいものにしたのか。 値段がさほど変わらないなら効率的だな。 意外とデキルなこいつ。
「で、そのバットは折れやすいバットと比較して値段はどのくらいなんだ?」
「なあに、ほんの10倍くらいだ」
「ほう……。それじゃあな。また」
「ああ! またな鳥朗!」
あいつが以前、使用していたバットは500円だから10倍で5000円か。 1試合1本折れてたから効率的だな。 なんせアオダモだからな。
第二話「効率的な鳥 vs 医者」
伯爵レグホン大佐 2013/05/18(Sat) 02:25
鳥朗は定期健康診断で異常が見つかり近所の診療所を目指していた。
梅雨の時季――、雨が降る日が多くなった。 今年は例年より雨が多い。 月曜から日曜まで雨の降る日が続いている。 そのせいか気が滅入る鳥も多く、 世間ではうつ病の鳥が増えていると報道しているほどだった。
「これはまずいですね。非常に」
「一度、徹底的に検査を受けた方が良いかもしれません」
白衣を着た梟(フクロウ)は言った。 鳥朗にとって病院は効率的な場所とは程遠い存在であったが異常が見つかればその限りではなかった。 大病を患う前に最小限で留めて置く方が効率的だと彼は思っていた。
翌朝、鳥朗は近所の病院ではなく規模の大きな病院へ行き、検査をしてもらった。 相変わらず雨は続いており、当日も天気は悪かった。
「あなたはインフルエンザに罹っているかもしれません」
医者は言った。
「このままでは鳥インフルエンザの感染者として殺処分の対象になってしまう可能性があります。 しかし今から治療すれば間に合うかもしれません。一緒にがんばりましょう」
診断結果を受けた鳥朗は愕然とした。 まさか自分が殺処分の対象になってしまうとは思いもしなかった。 効率的に生きることを第一に考える彼は……。 彼は……。 彼は……。 とりあえず自宅に帰った。 ここで悩んでも仕方がない。 彼は効率的に考え、病院の待合室で考えるよりも自宅に帰ることを選んだ。
自宅に帰った彼は、テレビの電源を入れてニュースを観ることにした。

「ただ今入ったニュースによりますと、昨日鳥インフルエンザウイルスが検出されたウズラと同じ小屋で暮らしていたウズラ25万9000羽を、本日午後に殺処分することが決められました。 処分されたウズラは農家の敷地内に埋められる予定です」
なるほど。 鳥にとってはまだまだ生きづらい世の中のようだ。 鳥朗は効率的な鳥であるため無駄なことは考えない。 そのため鳥インフルエンザと言われても特に動揺しなかった。
最終話「You are free now , aren't you?」
伯爵レグホン大佐 2013/05/26(Sun) 22:40
鳥インフルエンザの特効薬は未だ存在せず、病院では面談ばかりで治療などは一切なかった。 いつものように特効薬と称して薬を渡される。 それはインフルエンザに効き目があるわけでもない。 ただの気休めに過ぎなかった。 しかしながら、医療費は高く付いた。 一度の診断で1万~2万は支払う必要があった。 しかし、インフルエンザになった者は処分を待つばかりだ。 そのため金額を気にする者はあまりいないようだった。 そもそも病院に行く必要も本来ないのである。 ただただ処分の日を待つばかり。 彼は気休めにしかならないことを本心では分かっていたが病院には通い続けた。
そんなある日、彼宛に封筒が届いた。 封筒の表にはインフルエンザ対策機関鶏支部と記載されており、中身の手紙には彼が殺処分の対象になったことを知らせる内容が含まれていた。 彼はそんな機関があることを知らなかった。 ニュースでも公開されていない。 実際のところ処分がどのような形式で行われているか情報がなかった。 よほどの極秘事項なのだろう。
効率を第一に考え生きていた鶏は殺処分の対象となり処分された。 彼は処分されるその日まで自分が本当に殺処分されるとは思わなかった。 彼には実感がなかった。 彼がどのような方法で処分されたのかは分からない。 誰も知らない。 考えてもない。 噂では吊るされたとかなんとか。 死体は破壊の藤村(名字は島崎)によってバラバラにされ地面に埋められた。
彼は効率的に生きた。 処分されても彼が効率的であったことに変わりはない。 今後も処分は続いていく。 (終)
主題歌「飛べない鳥はブロイラー」

音のみ。MIDIです。絵はハロウィンの仮装。学生とニワトリが頭にカボチャをかぶっています。
梅雨の時期 今年は雨が多い
もうずっと 雨が続いているよ
そのせいか 気が 滅入る鳥も多く
うつ病の鳥が増えてる
僕の体はエビフライ
いつか食事に供される
ウイルスが 検出 されたら
翌日 殺処分される